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今の高齢者はもらいすぎ 年金問題解決の糸口は

学習院大学教授 鈴木亘氏

年金をはじめとする社会保障制度の改革を巡る議論は、具体的な将来像を描けないまま消費税増税だけが先行している。「なぜ社会保障費が膨張していくのか」「社会保障はもっと効率化できないのか」「税が不必要に投入されてはいないか」――などは十分に検討されていない。自民、公明両党は6月、民主党と社会保障と税の一体改革で協力することに合意。今回の衆院選後も、3党合意を維持する方針を改めて示した。鈴木亘・学習院大学経済学部教授は「年金をはじめ介護、医療といった社会保障のすべての制度について、抜本的な改革が必要だ」と主張する。混迷する年金問題などをどう解決に導けばいいのか。鈴木教授に論点を聞いた。

――消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法が成立し、現行5%の消費税率は2014年4月に8%、15年10月に10%へと2段階で上がります。首相が任命した有識者らが年金や介護など社会保障をどう改革するかを議論する協議機関「社会保障制度改革国民会議」が、11月30日に設置されました。

■消費税率、50年には30~40%に

鈴木 選挙後の新しい体制の下で、民主党政権が決めた社会保障制度改革国民会議の人選をもう一度やり直す必要があると思います。20人予定している有識者委員のうち、幸いにもまだ15人しか決まっていませんから、少なくとも残り5人の枠を、今回の選挙後に躍進した政党と相談して決めるべきです。

とにかく選挙前の社会保障論議は、国民にとって甘い話ばかりでした。選挙後は、本来の社会保障財政の姿を国民にきちんと見せるべきだと思います。いまの社会保障を続けていくと、どこまで消費税を上げなければならないのか。保険料はどれだけ上がって、最終的に給料の何%くらいまでになるのかといったことまで見せて議論すべきです。

民主党政権は最後に、社会保障全開の予算を組んだわけですが、負担については消費税5%の増税しか言いませんでした。けれども、これから高齢化が進んで社会保障費が増えることを想定すると、50年くらいまでには消費税は30~40%に引き上げなければいけなくなります。

■国民負担率は6割に上昇へ

また社会保障費のほとんどは、実は消費税以外の税や、社会保険料で賄っているので、それらもどんどん上がっていきます。私の予測では、2050年には、自分の稼いでいる給料の中から税金と保険料を支払う割合(国民負担率)は、だいたい6割くらいになる。ピークは2075年くらいで、そのころには7~8割になる見通しです。

――それでは、家計がとても成り立ちませんね。

鈴木 では、どうするか。社会保障費を削り込むとか、相続税など他の税を社会保障に充てる、といった議論が必要になります。ところが民主党は、我々に正しい事実を示さなかったのです。

■自転車操業の年金、世代間の不公平が拡大

――正しいことが伝わっていないという一つの例が、多くの高齢者が、自分が積み立てたお金で、年金が支給されていると思っていることではないでしょうか。年金は、現役世代が支払う保険料で高齢者世代を支える「賦課方式」が基本になっていることは、あまり知られていないですね。

鈴木 かつて日本は、自分が現役時代に積み立てた保険料を資金運用しながら老後に順次取り崩していく「積立方式」で年金を賄っていたのですが、途中で大判振る舞いを始めてしまった。少ない保険料でたくさん年金を出す。あるいは、たくさん年金を出す割には保険料をわずかしか収めなくていいということにした。その結果、みるみるうちに積立金は取り崩され、1970年からいままでの間に800兆円くらいがばらまかれました。

現状は自転車操業になっています。本来ならば以前に積み立てたお金を原資として高齢者に年金を支給できたのですが、いまは若い人が払った保険料をそのまま高齢者に渡しています。

若者と高齢者の数が同じなら問題は起きないわけですが、若者はどんどん少なくなっている一方、高齢者はどんどん増えていますので、若者1人からたくさんお金をとらないと年金を支給できなくなっているわけです。

日本はすさまじい勢いで少子高齢化が進んでいますので、後から生まれてくる世代が大変苦しくなるという世代間の不公平が大きくなるというのが、問題の本質です。

■唯一の解決策は「積立方式」への移行

――不公平の度合いはどのくらいになっているのですか。

鈴木 厚生年金だけで見ますと、1940年生まれの人は、いままで払ってきた保険料よりも生涯で受け取る年金額のほうが、だいたい3000万円くらい多いです。ところが2010年に生まれた子どもたちはまったく逆で、払う保険料のほうが、もらう年金額よりも3000万円くらい多い。イメージとしては、オギャーと生まれたばかりの自分の孫たちに3000万円の借金をさせ、いまの高齢者が3000万円をもらって生きているという感じです。

少子高齢化の流れ自体がもう変えられないのであれば、賦課方式という自転車操業をやっている場合ではないのです。年金を受給する人は若いうちに少し蓄えをしてもらって、自分が高齢者になったときには、息子や孫の世話にならず、自分が前に蓄えておいたもので老後が送れるようにすることが大事です。自分で自分の面倒をみるのが積立方式です。それが唯一の解決策であると思います。

■800兆円の債務、国が背負うべき

――積立方式に移行するという案は非現実的だという意見も多いようですが。

鈴木 問題は、すでに今、賦課方式を採っているということです。昔の積立金は使ってしまったわけです。お店をたたんで作り直さなければならないので難しいという意見が出ます。それでも、今ある賦課方式というお店はたたんだほうがいいというのが私の主張です。

賦課方式のお店をたたんで、積立方式に移行するために、どうするか。例えばJRが経営再建するというような会社の再建を想定してもらうと分かりやすい。

JRは民営化前の旧国鉄時代にものすごい多額の借金をつくってしまった。そこで国鉄をたたんで、清算事業団を作りました。国がその債務を背負いました。JRは債務なしにしてもらい、がんばったわけです。

年金も同じです。800兆円の債務を若い人たちに一手に背負わせるのは無理です。若い人の年金はJRのようにクリーンな制度にして、800兆円の債務は清算事業団をつくって国が背負うべきだと思います。

問題は800兆円の債務です。800兆円の債務が生まれたのは、過去の大盤振る舞いや失策のせいなので、みんなで公平に分担すべきです。一つは、いまの高齢者たちには、自分たちの世代が年金を少しもらいすぎているという事実を理解してもらい、「申し訳ないけれども、ちょっと負担してもらえませんか」と話します。年金をたくさんもらっている人は金額を少なくしてもらう。

生きているうちに税金で徴収するというのはかわいそうなので、亡くなられた後に相続資産が残っていたらそこから返してもらおうというのが私の案です。いまの高齢者は、自分が払っていた保険料よりも多くの年金をもらっているからこそ、たくさん相続資産を蓄えられたわけです。ですから、そこから税を取るというのは合理的だと思います。

国は借金を背負ったからといってすぐに倒れたりしませんので、子々孫々にわたるまで何百年もかけて、みんなでちょっとずつ負担していくということができます。高齢者と子々孫々、みんなでちょっとずつ分かち合えば、1人当たりの負担は少なくなります。

■若い世代の負担増、構図は同じ

――「賦課方式」は後期高齢者医療制度や介護保険でも採用されていますね。

鈴木 医療保険でも介護保険でも、使う人はほとんどが高齢者です。それに対して保険料や税金は、若い人たちが中心となって払っているわけです。ということは若い人たちからお金をとって高齢者に分配するという賦課方式です。そして、少子高齢化が進むと高齢者はどんどん増えていきますので、医療費や介護費がどんどん増えて、若い人1人当たりの税金や保険料の負担が重くなるという構図は年金とまったく同じです。

年金は過去に積立方式をやっていた名残で、まだ積立金がある。ですから、それを取り崩すというバッファー(緩衝物)がありますが、医療や介護は積立金がありませんので、高齢者が増えていくとその分だけ保険料を徴収しなくてはいけなくなります。

■介護保険の原資、6割が税金

――介護保険の保険料徴収は40歳からということで、年金よりも保険料を払っている現役世代が少ないですね。

鈴木 早晩、介護保険の保険料徴収は20歳からになると思います。

――介護保険料はいま5000円くらいですが、将来的には8000円くらいになるという見方もあります。

鈴木 そんなものでは済まないでしょう。介護保険が2000年に始まったときの事業規模は約3兆円でした。ところが今は約8兆円ですから、10年で2倍以上になっています。このペースでいったら8000円では済みません。

――介護保険制度にも公費が投入されています。社会保険の仕組みがうまく機能していれば公費の投入は不要なはずですが、なぜ公費が投入されているのでしょうか。

鈴木 日本の社会保障は「社会保険方式」と言われます。つまり保険料を徴収してそのなかから給付するという仕組みです。年金も介護も医療も雇用も、全部保険ですから、本来は保険料で賄わなければいけない。しかし日本はなぜか税金がすごく入っています。後期高齢者医療で半分、介護保険で6割、基礎年金で半分です。

他の国は、保険料が払えない低所得者に限って税を投入していますが、日本の場合は低所得者も高所得者も一律に税が入っています。日本は高度経済成長で低所得者が少なくなりました。そこで政治が、中所得者や高所得者にまでポピュリズムで税金をジャブジャブつぎ込んだのです。

最近はものすごい勢いで少子高齢化が進んでいるので、保険料や自己負担をどんどん増やさなければならないわけですね。でもそれは国民の反発を招くことになるので、税金を入れることによって、見せかけ上、保険料や自己負担を軽くしているのです。

■非効率で高コスト体質な日本の医療・介護

――しかし、見せかけで金額を安くすると、使いすぎてしまいますよね。

鈴木 今の高齢者たちは、自分たちが使う医療費や介護費を10とすると、そのうち払っている分は2なんです。保険料で1、自己負担で1です。残りの8は現役層やこれから生まれてくる世代に援助してもらっているわけです。2しか払っていないのに、それでも「高い」として、介護や医療をもっと使わせろと言う。本来の負担より低いので過剰な需要が発生しているのが実態です。

自己負担額が安いと、業界が多少非効率なことをしても、利用者は目をつぶってしまう。ですから日本の医療や介護はものすごく非効率で高コスト体質です。

――公費の投入をみると、12年度の一般会計で社会保障関係費は26兆4000億円ですね。こんなにたくさん税金を使っていいのかということがまず問題にされるべきかもしれません。

鈴木 一種のミルク補給をしているわけですけれども、そのために価格がゆがんで、必要以上に社会保障費が膨らんでいるという部分があります。

■公費投入は低所得者向けに限定を

――価格メカニズムがゆがめられているのは、特別養護老人ホーム(特養)も同じです。42万人も待機者がいると言われますが、普通ならば需要に応じて供給されるはずですよね。

鈴木 本来だったら有料老人ホーム並みの利用料を払わなければならないのに、税金が投入されて、入居費用がすごく安く抑えられている。安いならばそちらに入りたいということで、42万人もの待機者が出てしまう。

特養は、建設費にも国が補助金を出している。多額の税金を入れているから、簡単にはつくれないわけです。すると規制を始める。社会福祉法人しか特養はつくれないので、他の分野からの新規参入がありません。だから高コスト体質が温存されます。

社会福祉法人は税制上、非常に優遇されていて、消費税、固定資産税、相続税などすべての税がかかりません。昨年、事業仕分けで私は「仕分け人」をしたのですが、特養をつくっている社会福祉法人の内部留保は、総額で2兆円でした。介護保険はほとんど税金と保険料で賄われていますから公費みたいなものです。そこから内部留保が2兆円になるというのは信じがたいです。

その内部留保を使って特養をたくさんつくることで、待機者をなくしたり、あるいはワーキングプアの労働者の賃金を上げるというのであればいいのですが、そうではない。内部留保は相続できますから、オーナー一族のためにためるケースが多い。

こういう不透明な税金は投入しないで、公費投入は低所得者に限るべきだと思います。それで、利用者に対する補助金もやめれば、利用料は本来の水準に戻ります。そうすると、「こんなに高い料金ならばもっと効率化してくれ」とか、「家族経営をしているのはおかしい」といった声も出てくるはずです。

■会計や情報公開の制度見直し急務

――誰でも入れる特養に多額の税金を投入する意味がよく分かりませんね。こういう税金の使い方を国民はチェックしなければなりませんが、国民にはほとんど事実が明らかにされていません。

鈴木 既得権を守る側からすれば、「事実を見せない」というのが一番堅い守りです。社会福祉法人はこんなに公費が投入されているのに、その会計は一般に公開しなくていいことになっています。会計や情報公開など、最も基礎的なインフラから作り変えないと前に進まない世界ですね。

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